ほうじ茶の日記

ドラマ感想を中心に日々のことを添えて

【感想】シンパシーをびしびし感じながら読む穂村弘『鳥肌が』

うわぁあああ。分かる……分かりみすぎてつらい。

穂村弘さんのエッセイを読むといつもそんな感覚に襲われる。

分かる分かる~!から、これって私だけじゃなかったんだ、まで。
何故なら私も、ほむらさんと同じ側の人間だから。

『鳥肌が』にもシンパシーを感じまくって読んだ。
ネタバレレビューのはじまりはじまり。


★自分フラグ
自分の中の何かがある拍子に目覚めてしまうのではという話。
目の前の演劇を突然ぶち壊すとか。初めて手にした楽器がいきなり自由に演奏できたとか。

作中に出てきた「低い柵の屋上」を恐れる気持ち、よく分かる。

何個か前に出てきたホームの一番前に並ぶ、というのが私のなかでは自分フラグの中に入っている。

そんなつもりないのに、ぽいってしちゃったらどうしよう。
自分を。


★他人に声をかける
奥さまがまぶしい。フラットで、何かしてあげたいという気持ちを常に持っていて、実際にそれができる奥さまが。
私は絶対「そっち側」にはいけない。うらやましい。

ほむらさんの別のエッセイで"常連"について書いてあったが、それと同じ類いのうらやましさだ。
店に入るなり店員と挨拶を交わしたり、席につかないうちに注文したり。

以前知人が、遠くにいたウェイターに向かって「食後のコーヒーお願いします」と大声で言ったことがあった。
私は無理。自分だったらウェイターを呼んでテーブルまで来てもらう。そこで、食後の何ちゃらをお願いする。
マナーの上では後者の私の方に軍配が上がるだろうが、店員側から見ると知人のやり方の方が圧倒的に楽だろう。
こういう"強者"にあこがれてしまう。

もう一つ、別の羨ましさ。そんな方と出会えて伴侶になったほむらさんがうらやましい。


★子役
ひぇっ


★ヤゴと電卓
冒頭で引用されている短歌が好みすぎる。


★そっくりさん
Dくんに、ひぇっ。
直後の「隣人たち」の、「ぽたん、ぽたん」にもひぇっ。


★自分以外の全員が実は
ああ、こわい。
こわくて、好き。
掲示板の異世界系の話*1が好きな人は好きだと思う。
でも、「嫁として帰省」するのは、異世界の出来事ではなく現実だ。


★子供がこわいもの、大人がこわいもの
昔は大丈夫だったのに今は無理だなあというもの。その一つが、蛙。手の中でぴょんぴょんしているのが可愛かったけど、今はきっと触れない。
大人になってこわくなったものは、作中に出てきた友人談と一緒だ。ここにはジェンダーや体験の差が出てくる気がする。

子供の頃は自由ですごかったなあとここ数年ふとした時に考えるようになり、小さい大人になってしまったとしょんぼりしていたが、同じようなこと考えている人いるんだなとこれまた安心した。


★怒りのツボ
人によって違う。
"ビール券"に怒る人を目の当りにしたら、そ、そんなことで怒るのか……とひくと同時に、自分もやってしまいそうと不安になる。気を付けようと肝に銘じる。
でも"ビール券"の類いに怒る人って、馬鹿にされたって感じるのにくわえて、送ってきた相手のことを元々好きじゃない、というのもあるんじゃないか(作中の人物がそうだといいたいわけではなく)。

好意を抱いている相手からなら、「あの人ってこういうときビール券贈るんだ」で終わる。

ビール券嬉しいけどなあ。


★京都こわい
お土産あるある。
平常時なら買わないものを買ってしまう。
カステラとか、和柄のちりめん風ティッシュケースとか。


★現実曲視
これ大事。


★しまった、しまった、しまった
いなくなってしまった人。自分がその死に加担してしまったのではとつらくなる話。

同僚がある病で亡くなったときのことを思い出した。直前に私が仕事を振ってしまって、そのことでしばらく自分を責めたことがあった。
もしあの仕事を頼んでいなければもっと体が楽だったのでは?
仕事と病に因果関係がないのは誰の目にも明らかで、私が仕事を振ろうが振るまいが避けようがないのは分かっているのだけれど、それでも、生きていてほしかったよ。


★似ている
遺伝子の支配。己の輪郭があやふやになるこわさ。

女性編集者の談として出てきた「メンタルのバランスを崩す」ことへのおそれ。
すごくよく分かる。
この女性と違うのは、遺伝子ではなく、私自身が突発性難聴になったことがあることと、お腹を壊しやすかったりすること(お腹の弱さは遺伝)。あれ?これ2アウトまできてる?って不安になる。あともう一つ何かあったら退場になってしまうのかしら;; この世界から;;


★人生の後半の壁
ひたひたと確実に近づいている。


★よそんち
人の家の匂いって違うよなあ。

友達の家に遊びに行ったとき、その子のお父さんが喋っていることが早口で聞き取れなかったことがあった。
当然だが、友達は普通に会話してた。耳がそういうふうにできているんだろう。
よそんちって喋り方に癖があることもあるんだ、と感じた体験。


★装丁
表紙に鳥肌が立ってるなあ、というのは手に取った瞬間に気づく。

さて一息入れよう、と栞紐を挟もうとしたとき、それはやってくる。
え? なにこれ?
刺繍糸(笑)?
ふぅ~ん、これも演出の一環ねと意地悪く思う。

でもこれ、何か髪の毛みたい……と思ったところからぞわぞわが忍び寄ってくる。
ピンク色はまだいい。3本あるという違和感。
気に入ったエッセイが3本まで選べる、というには1本1本が細すぎる。
読書を中断して栞紐を掴む度、紐が細すぎて不安になる。
うまく出来てるなあ。

でもまだ仕掛けがあった。
うお、「目次の位置」が最後になってる。
ないと思ってたんだよ。

最初は「索引」と思って、エッセイに索引とは珍しいなあと思った。
でもよくみたら、「目次」だって。

*1:ゲラゲラとか時空のおっさんとか